【ネット時評 : 土屋大洋(慶應義塾大学大学院)】
「時間切れ」迫るブロードバンド整備

この夏、国内で8カ所ほどの旅館やホテルに泊まる機会があった。どこも過疎地とはいいにくい観光地だが、都会でもない。あいにく、ブロードバンド・アクセスを備えている宿は1つもなかった。PHSカードでアクセスできた宿も3つで、ほとんどのところでは電話線のダイヤルアップ接続に頼らざるを得なかった。ある宿は、新しいモダンな建物なのだが、室内の電話は内線のみで、館内の公衆電話もモジュラー・ジャックが使えなかったため、インターネットへのアクセス手段が何もなかった。
確かに、ブロードバンド・インフラストラクチャーの敷設コストの採算がとれない地域は存在する。「全国均衡のあるブロードバンド基盤の整備に関する研究会」の報告書でも詳細に検討されているが(http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050715_8.html)、なかなかブロードバンド・ゼロ地域はなくなりそうにない。敷設コストの大半は人件費や設備費だが、仮に敷設できたとしても、維持費が相当かかる。そうしたコストを回収するのはどうしても難しい。
今が最も整備しやすい時期
しかし考えてみると、日本の人口は今が最多で、今後は漸減が予想されている。そうだとすると、今後インフラの整備環境が好転する可能性はもはやないのではないだろうか。つまり、現在過疎地になっているところでは今後人口が増える見込みは低いだろう。今の段階で敷設できなければ、今後も敷設できない可能性が高い。
電話のサービスが全国あまねく提供可能になったのは、日本経済全体が拡大・成長基調にあったからである。長距離通信から市内通信へ、都会から田舎へ、企業から家庭へ、電電公社の中で補助が行われていたからこそできた話だ。現在の競争市場では、そうした内部相互補助はできない。
無論、技術への期待を捨て去るべきではない。より長い距離での通信が可能な無線LAN技術であるWiMAXへの期待も高まっている。しかし、敷設・維持コストが二けた違うところでも可能であろうか。採算地域、準採算地域、準不採算地域、不採算地域と四つに分けるとしたら、不採算地域へのアクセスは難しいままだろう。
不採算地域にある過疎地にもブロードバンドが仮に通れば、それなりの恩恵は受けられるだろう。遠隔医療や遠隔教育にも役に立つだろう。技術を使ったことがない人に「使ってみたいですか」と聞くのは意味がない。過疎地の人たちでも、その技術が使えるようになり、実際に使ってみればその恩恵に気づくはずだし、新しい使い方を見つけるかもしれない。
日経デジタルコアとCANフォーラムがレポートしている通り、今のところ、各地で進み始めている地域情報化の取り組みは、地元の志ある人のリーダーシップによって進められている。しかし、そうした有志がいない場合には、望みは薄くなっている。国や地方自治体の財政赤字が大幅に改善しなければ、公的支出によるインフラストラクチャ整備も難しくなりつつある。時間切れが迫ってきているのだ。
道路大国からの転換
この問題に簡単な解決策があるわけではない。しかし、誰でも考えるように、これまで道路などにつぎ込まれてきた公共事業費を何とか転用できないかというのは再検討していい課題だと思う。世界で最も道路が長いのは米国である。その次はインドだ。両国の道路密度(道路延長÷国土面積)は0.66と0.77である。ところが、日本は、総延長では米国の約5分の1、インドの約2分の1であるにもかかわらず、道路密度は3.13になる。舗装率を見ると、米国が58.8%、インドが57.4%、日本は78.2%である。なんとも道路大国なのだ。米国と比べてみても、日本の道路は格段に良く整備・維持されている。米国の道路は主要幹線でもでこぼこになっていることもある。
所管官庁も受注企業も全く異なるのだから、道路の予算を通信整備に回せというのは、政治的にはナンセンス極まりない。しかし、民主主義とは革命を起こすことだ。政権が代わろうとしているとき、民が求めていることを言わなくしていつ言うべきだろうか。
<筆者紹介>土屋 大洋(つちや もとひろ) |
2006-9-14 カテゴリー : ネット時評 , 土屋大洋(慶應義塾大学大学院)
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